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zoom RSS 聖杯伝説と、その原型 ―「聖」なる属性の付加と、その裏側

<<   作成日時 : 2012/06/23 00:10   >>

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【2017/5/28追加分】

最近の研究をまとめてみたところ、巨石文化がケルト人関係ないことはもちろん、そもそも島のケルトは存在しなかったと(ケルトじゃない別のなにか)いう結論になりました…。

「島のケルト」は「大陸のケルト」とは別モノだった。というかケルトじゃなかったという話
http://55096962.at.webry.info/201705/article_21.html

なお今まで「ケルト神話」と言われていたものも、島のケルトに属するものは”ケルト”神話じゃなくなります。
アーサー王伝説もケルト由来とは言えなくなりました…。

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某聖杯を巡って戦うアニメが最終回を迎えるらしい。
アニメは途中ちらっと見た程度なので内容的にどうこう言えるほどではないが、聖杯をぶっこわすのは何もアニメの主人公が初めてではなくて、その原型の一つに既に「ぶっ壊す」選択肢があったりする。

ウェールズの古伝承を文章化して記録した物語集「マビノギオン」の中に、「スィールの娘ブランウェン」という話がある。ブランウェンは、イングランド王の妹で、アイルランドに嫁ぐこの物語の中心人部。
絶世の美女で望まれて嫁いだはずだが、やがて異国に嫁いだ彼女は虐げられるようになり、祖国の兄のもとに助けを求める。イングランド王ベンディゲイドブランはアイルランドに攻めこみ、戦いがおこる。このときアイルランド側が使ったのが「再生の釜」、死んだ戦士を放り込むと翌日にはよみがえる(ただし口はきけない)という魔法の道具だった。

戦いは終わらず、同胞たちが倒れていくのを見たイングランド陣営の男エヴニシエンは一計を案じ、死体のふりをして釜に自ら放り込まれる。中でエヴニシエンが手足を張ると、釜は、彼の心臓とともに弾けて壊れてしまった。あとには死体の山。生き残ったものはブランウェンと、たった七人の男たちであったという。


この救いようのない物語に登場する「再生の釜」が、聖杯の原型の一つである。
というより、正確には「聖杯」という名前を与えられる以前の聖杯伝説の原型である。

そもそも聖杯(グラール)は、聖なるもの(サン・グラール)ではなかった。生命を生み出す源、食物を供するもの、豊穣の象徴、英雄に与えられる象徴。ケルト神話の中に登場する数多の魔法の"器”たちは、純然たる力を宿す道具でしかなく、そこには本来、聖も魔も、善も悪も存在しない。


原点に戻ろう。

そもそも現在ある「聖杯伝説」とは、二つの大きな流れが撚り合わされて作られた伝説である。


一つはケルト神話。

もう一つはキリスト教の聖遺物崇拝。



二つの流れが合流する地点が、「キリスト教世界の最高の王」「ブリテン島の最後の英雄王」アーサー王にまつわる伝説なのだ。

のちにグラールと呼ばれることになる「器」のもともとの性質や伝説はケルト世界に属している。
かたや、キリスト教世界には、十字軍の時代から熱の上がり始めた聖遺物崇拝により、新たな伝説が生まれつつあった。「アリマタヤのヨセフが、磔刑のキリストの血を受けた盃」もその一つだ。
グラールという名前を与えられ、アーサー王伝説に組み入れられた後に、伝説の中に登場する器にはキリスト教世界で生まれた「聖遺物の伝説」が重ね合わされていく。こうして形作られたのが「アーサー王伝説」の中の「聖杯探求」の物語であり、だから聖杯から上辺の衣をぺりりと剥がせば、その下にあるのはキリストの血を受けた盃ではなく、ケルトの魔法の器なのである。


ケルトの魔法の器は、「純然たる力を宿す道具でしかない」。


だから神が持つこともあれば英雄が持つこともあり、英雄の敵となる勢力や闇の神々が持つこともある。
その威力もまちまちで、死者を不完全な形で蘇らせ永遠に戦わせる、冒頭に上げたような禍々しいものもあれば、豊穣神ダグダの好物のお粥をひたすら生産してくれる無限弁当箱のような微笑ましいものまで。アーサー王伝説に組み込まれる以前の形を残す聖杯伝説では、グラールを獲得する権利を持つのはパーシヴァルで、望む食物を生産する力を持つとともに、その器を手にするものは聖杯城の主となって領土を豊かに治める、とされている。豊穣神ダグダの釜と似た食料を生産する器であるとともに、王たる資格の証という扱いだ。

そこに聖なるものという概念はない。ただの「道具」である以上、使い方次第、あるいは所有者によって性格を変えるものと言える。
持ち物が、もとの持ち主の手を離れたとたん持ち主にとって悪しきものとなるパターンもケルトではありがちで、有名どころでは自らの武器に殺される英雄クー・フーリーンなどが有名だろうか。



だから日本語で「聖」杯と訳されているそのシロモノは、実際はそんな良いモノではない。

そもそも聖杯探求が原因でアーサー王の円卓は崩壊していくことからしても、良いモノであるはずもない。中から粥が出てくる程度ならいいのだが、死者の魂を欲する側だったら、エヴニシエンがそうしたように、ぶっ壊して二度と使わないのが正しい判断だろうと思う次第である。

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